代表インタビュー

他社がやらないことをやれば、
業界のチャンピオンになれる

代表取締役社長 永用 万人

代表インタビュー

他社がやらないことをやれば、
業界のチャンピオンになれる

代表取締役社長 永用 万人

アントレプレナー(連続起業家)として多種多様な業界で、約30の企業を立ち上げてきた代表取締役の永用万人。いま、医療業界で目指すものとは――。

プロフィール

鹿児島大学卒業後、建設会社での勤務を経て株式会社WDI&JEMへ入社。外食業界で店舗支配人や取締役を歴任。その後株式会社ボイスメールに入社し、営業職を経て取締役に就任。この経験を経て独立し、スペースリンク株式会社、しまうまプリントシステム株式会社、データCAPS株式会社、きりんカルテシステム株式会社、データ・リファイナリー株式会社を創業。現在はSDPジャパン代表取締役社長。

競合の追随を許さないナンバーワンへの挑戦

鹿児島で生まれ育ち、地元の大学へ進学しました。学生時代、勉強はほとんどしなくて、大学は7年かけてようやく卒業。工学部でしたが、学生時代の飲食店バイトが楽しかったので、外食業界へ就職しました。東京へ出るつもりはなかったものの、やはり一度は競争が激しい環境に身を置いてみたいと思い直し、30歳で東京へ。1990年のことです。

「これからはマルチメディアが世の中を変える」と思い、東京ではIT企業へ就職。ポケベルと連動して留守番電話が聞けるサービスの開発などを担当しました。その会社にいたとき、コンビニのキオスク端末の開発・運用をやらないかと声がかかり、初めて会社を設立しました。キオスク端末は音楽販売やデジカメプリントもできるもので、最終的に全国約8000店舗に設置されるほど成長しました。

ところが一緒に事業をやっていた会社が倒産し、音楽配信事業を引き継ぐことに。若くて経営の知識も乏しかったので、デューデリジェンス(買収企業の事前調査)もせず、二つ返事で引き受けてしまいました。すると毎月の赤字が大きく、会社の業績がみるみる悪化。最終的には売却せざるを得なくなりました。

この売却は私にとってビジネスでの初めての大きな失敗で、失意のどん底に。どうにか気持ちを切り替えなければと思いついたのが、バイクでの日本一周の旅です。免許をとるより先にBMWの大型バイクを買いました。教習所では、20歳前後の若者に40歳近くのおっさんが一人交じっている状況(笑)。でも、そんなことをしているうちに、ふと新規事業のアイデアを思いつきました。

それがネットプリント専門店「しまうまプリント」です。前職のキオスク端末にはデジカメプリント機能も備わっていたので、写真の仕組みは大体わかっていました。当時、まちなかの写真店ではL版1枚40円程度で販売していたところを、5円で販売。圧倒的な低コストで業界チャンピオンになりました。

写真サイズは、注文の9割以上を占めるL版に限定して余剰在庫を削減。ネット専門店という特性を活かして地方工場にプリント工程を集約し、人件費や地代家賃を大幅にカットしました。こうした小さな改善の積み重ねが、結果的に大きな改善につながるのは、どの業界でも共通です。

最初の失敗以降、私は常に「業界のチャンピオンになる」ことを目指してきました。「しまうまプリント」の事業は非常に好調でしたが、あるとき4000万人の会員を有するポイントサービスを展開する会社に声をかけられ、「それで断トツのチャンピオンになれるなら」と売却を決めました。

チャンピオンにこだわる理由は、どんな業界でも1位でなければ生き延びていくのは難しいと思うからです。2位で収支トントン、3位だと赤字リスクも出てくるでしょう。たとえば国内のバイクメーカーもいまは数社のみですが、昔は数百社ありました。どんな産業も勃興期には激しい競争があるものです。

私が「しまうまプリント」を創業したことで、多くの町の写真屋さんが閉店に追い込まれたのも事実でしょう。しかし、私は人類が進化するには競争は不可欠だと思うのです。はたして電気も水道もない100年、200年前の生活に多くの人は戻りたいでしょうか。競争の途中で淘汰されるものがあっても、長い目で見たときに、やはり進化の方向へ進むことが大事だろうというのが私の信念です。

起業家として成功するのは100人に1人

私はこれまでに大小含めて30社くらい起業しています。成績は3勝25敗くらい、あとは引き分けでしょうか。起業は決して簡単ではありません。ただ、ひとつだけ心がけているのは、引き際を大事にすること。大きな傷はたくさん負っていますが、まだ致命傷はありません。

日本は生活保護も手厚く、起業家へのセーフティネットが整っていますから、失敗を恐れずチャレンジしやすい環境です。挑戦するほど、経営者としての足腰は強くなります。今後は、日本の医療業界にも海外の資本が流入し、熾烈な競争が起こっていくでしょう。いまのうちから経営の足腰を強くしておくことは非常に重要だと思います。

そもそも、なぜ私が連続起業をするかというと、ビッグピクチャー(全体俯瞰図)を描いて0から1をつくるのが好きだし、おそらく人より少しだけ得意だからです。肌感覚ですが、ビッグピクチャーを描けるのは100人に10人程度。実際に行動に移せるのがそのうち5人。最終的にうまくいくのは100人に1人くらいかなと思います。

一方で私の場合、1になったものを50や100にして作業することは、楽しさより息苦しさを感じてしまいがち。ある程度、事業が軌道に乗ったら、他の人に任せることが多いですね。

人生は“ツーペイ”だからやりたいことをやればいい

事業計画を立てているときは本当にワクワクしますが、実際に事業をはじめると辛いこともたくさんあります。若いころ、ベッドで一人大泣きした夜も数えきれません。泣くのが一番のストレス発散になるんです。年齢を重ねるにつれて、涙も枯れてきましたが(笑)。

しかしどんなに辛いことがあっても起業を繰り返してきたのは、苦労やリスクが大きいほど、成功したときの喜びも大きいから。苦労が少なければ、成功したときの喜びもほどほどです。どちらが良い悪いということではなく、あくまで好みの問題。寿司とステーキのどちらが好きか、くらいの差しかないと思います。

この年齢になって思うのは、人生は“ツーペイ”、つまりプラスマイナスゼロだということ。人生の最後はみんな一緒なんですよ。だからやりたいことをやりたいようにやるのが一番だと思います。

昔から業界にイノベーションを起こすのは「若者」「馬鹿者」「よそ者」だといわれてきました。アントレプレナー(連続起業家)は、まったく未知の業界にチャレンジすることも多く、私自身「業界の常識がわかっていない」と否定されたことが何度もあります。でも、そこにこそ可能性があるのです。業界の常識に対する「なぜ?」が発端となり、それをどう改善していくかを考えれば、それがそのままビジネスに直結します。

私がビジネスを続けてこられたのは運が良かったからですが、40代からは運が味方をしてくれるような行動を意識的にとっています。一例ですが、自慢話や人の悪口をいわないこと。それからトイレ掃除をやること。昔から、トイレには神様がいるといいませんか。家のトイレや会社のトイレはもちろん、客として利用する飲食店のトイレでもゴミが落ちていれば拾います。これみよがしにやるのではなく、謙虚な気持ちでやることが大事ですよ。見えない徳“陰徳”を積むつもりでやると、豊かな気持ちになれると思います。

非効率な医療業界にイノベーションを

医療業界に参入したのは偶然の出会いから。ある小児科医に「独立して最新のエビデンスに基づいた診療を積極的にやりたい」と相談されたのです。日本の医療業界は、さまざまな課題を抱えています。とくに総合病院は縦割り構造で非効率だったり、新しいことにチャレンジしにくかったりします。

意欲的な医師がもっと活躍できる場をつくりたいと考え、クリニックグループ「キャップスクリニック」を立ち上げました。グループの特長は、365日年中無休診療。ほかにはない特長を打ち出すことで業界のチャンピオンを目指すのは、医療業界でも変わりません。

医療業界へ参入し、「スーパードクター」の存在を知ったことが、SDPジャパンの創業につながりました。地方の総合病院には、高い技術と志をもった「スーパードクター」が大勢います。彼らの手術は半年待ちも当たり前。腕が良いので患者さんが殺到することに加えて、縦割り構造の総合病院ではオペ室の割り当ても融通が利きにくく、効率的に手術をおこなえないことも背景にあります。

そこで専門手術に特化した病院やクリニックの開業・経営を支援するSDPジャパンを立ち上げることにしたのです。せっかくいい腕があっても、それを活かしきれないのはもったいない。「よく切れるナイフが使われずに錆びついているなら私が研ごう」という気持ちです。

特定の専門手術に特化したクリニックなら、スーパードクターは得意な手術に集中できます。稼働率も上げられますし、手術に特化することで診療単価も高くなります。そして何より、手術を必要としている患者さんが喜びます。

ビジネスの観点からもチャンスは大きいと考えています。2020年度の日本の手術の市場規模は約17兆円とマーケットが大きい業界です。なかでも当社がプロデュースする領域の整形外科(人工関節・脊椎)や循環器科の疾患は、高齢化社会を背景に治療ニーズは拡大傾向ながら、多額の設備投資が必要で、独立・開業が難しい診療科です。また、整形外科や循環器科の手術原価の4~5割はインプラント(人工関節)が占めます。インプラントはメーカーや種類を絞るなど調達次第でコストを削減できる余地も大きい部分です。

当社のような特定領域のスーパードクターに特化したビジネスモデルは日本にはまだありません。業界にイノベーションを起こしていくプラットフォーマーとしてチャンピオンになれると確信しています。今後も、このプロデュース事業は年に2院程度のペースで進めていきます。いずれはオンライン診療やオンライン手術システムも実現していく予定です。

医療業界で働く醍醐味のひとつは、心からの「ありがとう」をいわれること。とくに我々が特化している整形外科や循環器科は、歩けない人が歩けるようになったり、痛みで眠れない人が眠れるようになったり、患者さんのQOL(Quality of Life)、すなわち人生の質を劇的に上げます。一般的な「ありがとう」とは重みが違う気がしますね。

さきほどお伝えしたように、「若者」「馬鹿者」「よそ者」みんな大歓迎です。学歴より地頭の良さが大事。あとは明るさですね。一緒に楽しく働きながら、業界にイノベーションを起こしていきましょう。